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あの時いたおっちゃんの名前を僕達はまだ知らない。(後編)

日常&子育て
【閲覧注意】記事内に広告がめちゃくちゃしっかり鬼のように含まれています。

さて、お待ちかね!(のはず…)

【あの花】ならぬ【あのキモ】の後編です。(ちゃんと略してない)

前編のあらすじ

前編を読むと後編がよりおもしろいよ!…たぶん。

10年以上前にノリこが勤めていた職場には「見た目はキモいけど、めっちゃいい人」と言われるおっちゃん、通称【ちょんまげ】という常連客がいた。

優しくて紳士的なのに、絶妙にキモい。

謎多きおっちゃんとの会話の中で、徐々に知る彼の素性。

勤め始めて約1年、ノリこは先輩からおっちゃんとの秘密の飲み会に誘われる。

「わかりました。都合つけます。」

同棲中の彼氏の了承を取り付け、ノリこは飲み会当日を迎えた。

後編スタート!

飲み会当日、いつもの時間におっちゃんは来場した。

一見するといつも通りのすがたに、何か違和感を感じる。

おっちゃんは全体的にほんの少ーしだけ、小綺麗だった。

輪ゴムでくくられ痛々しい後ろ髪は、学生が使うような黒ゴムでくくられていた。

つばがボロボロだった野球帽は、年季は入っているけどそこそこ普通の野球帽に。

首がダルダルで訳の分からない英字の入ったヨレヨレのTシャツではなく、ユ○クロっぽいシンプルな黒のTシャツに。

いつもパンイチで来てるんじゃないかと思うほどペラッペラな半ズボンが、これもまたシンプルなカーキのカーゴ風ハーフパンツ。

足元は年中雪駄かビーチサンダルだったが、その日は先のあるクロッ○スのようなサンダル。

トレードマークの毛玉だらけの腹巻は、真新しいものをつけていた。

「おぅ、ちょんまげぃ。今日はめかしとるのぉ。」

今日のことを知っている年配の上司ナカモトさんが、ニヤニヤしながら私の後ろからおっちゃんに声をかける。

「今日は大事な用事があるからなぁ。ミダシナミ、ちゃんとしてるねん。」

ニチャぁ〜とおっちゃんも笑いながら、場内に消えていった。

職場での1日が終わる頃、おっちゃんと入口で出会う。

「…また後でな。」

私にだけ聞こえるくらいの大きさで囁いて、おっちゃんはいつもの方向へ歩いていった。

仕事が終わって制服を着替えると、飲み会に参加する数人は別々に職場を出て、帰るふりをしながら指定の待ち合わせ場所に向かった。

そこにおっちゃんはいなかった。

繁華街で自分とアンタらの組み合わせは目立つから、というおっちゃんの配慮から現地集合らしい。

「こっからは、私についてきて。」

今回私を誘ってくれた先輩、マキさんの案内で私たちが向かったのは、大通りから少し外れたビルだった。

看板もなく、階層を示す案内板にもポツポツとしか表示がない。

最上階でエレベーターが開くと、薄暗い通路が現れた。

薄暗い、と言っても怪しいとか汚いではない。

真っ黒な壁が続き、通常なら地面を照らすはずの照明が上を向いている系のムーディーな間接照明。

なんでビルの中に砂利敷いて竹が刺さっとんねん!な中庭的空間。

中流家庭で育った私でも、ひしひしと感じる…

圧倒的、高・級・感…!

まるで芸能人やスポーツ選手がお忍びでくる、隠れ家的なお店がそこにはあった。(私が知らなかっただけで実際そうだったかもしれない)。

その入り口には、店には全然似つかわしくないおっちゃんが、信楽焼のタヌキのようにポッテリと立っていた。

「ノリちゃんは、焼肉好きか?」

店の高級感に萎縮しつつ無言でコクコク頷くと、「そら良かった」とおっちゃんはニチャニチャ笑いながら店員に案内されて店内の奥、個室へ入っていった。

「ちょ…マキさん…っ、私そんなお金持ってきてないんですけど…!」

このお店に入った瞬間から不安になっていたことをコソコソ話で先輩に伝える。

おっちゃんとの飲み会なら、白○屋か村さ○あたりのリーズナボーな居酒屋だろう。そう高を括っていたので、私の財布には樋口一葉さんが一人在籍されているだけだった。

「だーいじょうぶやてノリちゃん。こんなとこ、おっちゃん払ってくれんと来るわけないやん。」

「え…っ、今日、おっちゃんのオゴリなんですか?」

「あったりまえやーん!こっちは誘われてんねんで?予約したんはアタシやけど、払いは全部だしてくれるから大丈夫。」

今日は、おっちゃん合わせて7人。

女子とは言え6人分の食事代。しかも高級焼肉店。

そして何を隠そう私が今話している先輩マキさんは、通称【ざるのマキ】。

『人のオゴリならなんぼでも飲める!』と豪語し、職場の飲み会でもアルハラ上司を逆に財布ごと潰すような姐さんなのだ。

支払いは、確実に6桁を超える。

「ノリちゃん、おっちゃんの財布見たことないん?」

「あの、バリバリ財布ですよね?」

おっちゃんの財布は、中学生男子が持つような3つ折りマジックテープのナイロン財布。実はそこに、見た目以上の金額が入っているのは私も知っている。大体いつも2、3万くらいか。

「それは、肩掛け袋に入ってる方の財布やろ?」

「え?それ以外の財布があるってことですか?」

「おっちゃん!アンタ、ノリちゃんに財布見せたことないん?」

店員に口早に大ジョッキを2杯頼みなから、おっちゃんの隣に座ったマキさんが聞いた。

「ん、あぁ見せてないな。あすこでは財布出さんから。」

そう言うと、おっちゃんは真新しい腹巻から長財布を取り出した。

使い込まれてはいるが、上品な黒革の分厚い財布。

中を広げると一万円札が10枚ずつ束になって、一瞬の目視では数えられないくらい入っていた。

私と同様、今回初めて飲み会に参加した子もそれを見に来てキャッキャと騒ぐ。

「いつもはこんな入れてへんで、今日は特別や。マキちゃんに飲ましたらんといかんからなぁ」

普段、場内ではワンカップしか飲んでないおっちゃんが、赤ワインのグラスを店員に注文した。

「えーで。好きなもん頼んで、勝手に食べおし。」

おっちゃんの一声で、宴が始まった(マキさんの前にはもう大ジョッキ2個きてたけど)。

ちなみに、テーブルにあったメニューに値段は書いていなかった。


おっちゃんは、私とマキさんと3人のテーブルでワインとビールをちゃんぽんしながら、いつものわかば(安いタバコ)を吸い、女の子達の楽しげな様子を眺めていた。

一応おっちゃんとマキさんにビールを注ごうと気は使ったが、2人共に「手酌でいい」と断られた。

女子6人で、ただ良い肉を食べて、良い酒を飲んで騒いだ。

時々、もう一つのテーブルから若い女の子がこっちにきて「おっちゃん聞いてや〜」と他愛のない話をする。おっちゃんもニチャニチャ笑いながら相手をする。

ただそれだけだった。宴での話の内容はあんまり覚えてない。

とにかく楽しかった。

殆どお酒は飲めない私だが、その場の楽しい雰囲気に存分に酔った。

終電間際。宴も終わりの頃、私たちはおっちゃんより先に店を出た。

私たち5人分より大量に飲んでいただろうマキさんは、店の下に数台タクシーを呼んでいた。

そしておっちゃんを待つ間に、真面目な顔で言った。

「おっちゃん降りてきたら、みんなでちゃんとお礼は言おうな。それはマナーやで。」

さっきまでケラケラと笑っていた全員が「ハーイ」と言って従う。

ふらふらとエレベーターを降りてきたおっちゃんに、「今日は、ご馳走様でした!」とみんなで挨拶し、頭を下げる。

聞こえているのかいないのか、おっちゃんはふらふらしながら笑い、軽く手を上げた。

マキさんともう1人が手を貸しながら、タクシーまで連れて行く。

「すいません、とりあえず○○駅の方面へ走ってください。そのうちこの人が目的地言いますんで。」

そう言うとマキさんは、おっちゃん1人を乗せたタクシーの扉を閉めた。

「…かなり酔ってるみたいでしたけど、大丈夫ですかね?」

帰りのタクシーで心配になってマキさんに聞いた。

「大丈夫やろ、たぶん1人になったらしっかりしはる。おっちゃん、目的地教えてくれへんねんけど、いつもちゃんと家に帰ってるはずやで。アタシらのタク代も会社通して払ってくれはるし。このまま家まででもいいと思うけど、ノリちゃんどこまで乗る?」

私は終電にまだ間に合ったので、駅で降りた。

マキさんは「飲み足りんわ」と言って、知り合いのバーまで乗って行ったらしい。


おっちゃんは、どこに住んでいるのか教えてくれない。

以前バスでここまで来ると聞いていたが、マキさんの話では、その路線も本当ではないらしい。

朝早くに最寄りの駅までタクシーできて、そこでしばらく時間を潰してから開場の時間に合わせて他の客と一緒にバスで来るそうだ。

そして何故あれだけのお金を持っているのか。

それは後で、本人と上司のナカモトさんから教えてもらった。

おっちゃんの家はもともと小金持ちだったらしい。

自分の家の他にも、親から相続した土地や財産を持っていた。

その上でひたすら職人として仕事をし、そのお金をわずかな趣味に使う以外は質素な生活をし、家族も作らず、使わず貯まった分は投資に当てたそうだ。

ある程度の年齢ですでに働かずとも生活は出来た。しかし、職人の仕事が好きで定年まで続けて今に至っている。

今は生活のすべてを年金でまかなえるので、不動産や投資の収益だけが増えていく状態らしい。

彼は、今流行りのFIRE民だったのだ。

しかし、おっちゃんはそれを周りにひけらかすことはなかった。

場所が場所だったので、バレるとたかられたり強請られたりする恐れがあったからかもしれないが、おっちゃんがそれを話した人も誰もそれを吹聴することはなかった。

前編に引き続いてまた私の推測だが、おっちゃんはお金と共に【信用】もえげつなく持っていたんだと思う。

そしておっちゃんは、お金も信用も、使うところをシビアに選んでいた。

お金は使えば減る。

同様に【信用】も使えば減る。

【信用】を使う、というのは

自分が相手に信用されていることを利用するという意味ではなく、

自分が相手を【信用】するという意味だ。

【信用】は常に【裏切り】や【失望】と隣り合わせだ。

信用すれば、裏切られることもあるし失望することもある。

それは時として自分の財産だけではなく、人生や精神にもダメージを食らうこともある。

おっちゃんはそのリスクを極力回避していた。

基本的におっちゃんは、誰も信用しない。

だから自分の住んでいる場所はおろか、自分の本名すら教えないのだ。

誰も信用しない。期待もしない。

そこには裏切りも失望もなく、自分は傷つかない。

しかしそれは、とても無責任な行為でもある。

おっちゃんが結婚をしなかったのも、そのせいかもしれない。

自分の人生に誰も関わらせない。そのかわり誰の人生にも関わらない。

だから、誰にでも臆することなく優しくできる。

するとまた【信用】が貯まる。みんなに愛される。

みんなに愛されていたが、おっちゃんはずっと独りだった。

もしかしたら、とても寂しくなる瞬間があったのではないか。

そんな寂しさを一時紛らわすために、たまに自分の気に入った女の子を誘って、バカ騒ぎに身を投じたかったのかもしれない。

場内で飲んでいたワンカップや安いタバコも、高級焼肉店での食事会も、おっちゃんにとって寂しさを紛らわす点においては同じようなものだったのかもしれない。


勤め出して数年が経った。

おっちゃんは相変わらずふらっと現れて場内で1日を過ごし、私は年に数回ある食事会に誘われて、ときどき参加した。

当たり前だが、おっちゃんは年々老いていった。

元々もうおっちゃんというよりは、おじいちゃんに近い見た目だったが、さらに頭もひげも白くなり、歩き方も力なく弱っていった。

このころ時々おっちゃんは、半月ほど来なくなることがあった。

しばらくすると、またひょっこり現れる。

「おぅ、ちょんまげ。まだ生きてたか!」

ナカモトさんが声をかける。

「ちょっと倒れて、ニュウインしとったわ。」

ニチャニチャ笑いながら、さらっとおっちゃんは応える。

「おぉ、そやったかー、ちゃんと死ぬ前には連絡してこいよ!」

さらっとナカモトさんも悪い冗談を返す。

ここは、そんな場所だった。

どれだけ長く付き合っても、どんなに深い話をしても、絆があるようでない。

私がおっちゃんとは「ここ以外でのお付き合いはできそうにない」と思ったように、誰もがきっとそう思っている場所だった。


私は同棲していた彼氏と結婚し、妊娠した。

安定期を迎えた時に、私はちょっとドキドキしながらおっちゃんに報告した。

「おっちゃん、私…実は妊娠してん。」

「せやろな。おめでとうさん。」

「え、知ってたん?それともバレてたん?」

「聞いてないけど、わかったで。なんか、顔がな…お母さんの顔になってた。」

「えー、そーかなー?おっちゃんくらい歳いくとそんなんもわかるんー?」

「そらわかるで…ノリちゃん、ちょっと肥えたやろ?エラい顔が丸なったからな。」

「なんやおいちょんまげ、そう言う意味かい!」

いつものようにおっちゃんはニチャぁ~と笑った。

「ココは辞めるんかいな?」

「んー、わからん。ちょっと早めに産休はもらうつもりやけどなー。初めての子やし、ココはあんまり空気も良くないから旦那がやめろ言うたらそのうち辞めるかも。」

「そーか。ノリちゃんおらんなったら、寂しなるなー。」

「ホンマかいな?マキさんおるし、最近入った大学生の子もめっちゃお気に入りやん。また飲み会呼ぶ子増えるんちゃう?」

「まぁな、ここはいろんな子が出たり入ったりするから楽しいわぃ。ほな、注文頼もか。」

おっちゃんはニチャニチャ笑いながら注文を早口で頼んだ。

「そしたら復唱するな。コレとコレとコレと…合ってるよな?」

「うん、合うてる。ありがとうな。

…お腹の子、大事にしぃや。」

最後の真面目な一言が、妙に沁みた。

長男を出産して産休から復帰した私は、しばらく勤務を続けたが、都合で引っ越すことになった。

最後の出勤の日も、おっちゃんはいつもと変わらなかった。

開場の時間も終わりに差し掛かった時に、私はおっちゃんにお願いをした。

「おっちゃん、一つだけお願いあるんやけど…良かったら、写真一緒に撮ってくれへん?

おっちゃんは今まで、絶対に写真を撮らせてくれなかった。

飲み会の時も「自分が写真に入ったら可愛いアンタらが台無しになる」とか「カメラに魂抜かれるからイヤや」とか、なんだかんだ言い訳をして写真に収まるのを嫌がった。

その時も最初は「魂抜かれる」とかなんとか言って嫌がっていたが、私も負けずに「最後やし!」とか「ノリこの可愛い制服姿と一緒に収まってーやー!」などと言い続けて、無理やり首を縦に振らせた。

「なになに?おっちゃん写真撮るん?私も一緒に入って良い?」

「えー、ワタシもおっちゃんと撮りたいー!」

飲み会の常連組も騒ぎ出した。

「ほな…一枚だけやで?」

そう言って、おっちゃんは結局2、3枚撮らせてくれた。

その写真は…

家のどこかにある。はずだ。

旦那の実家に引っ越した時も、一年前に新居に引っ越してきた時にも確かあった。

どこかのアルバムにひっそりと収まっていて、大掃除や荷物の整理をしている時にひょっこり出てくる。

旦那もそれをみつけると「なぁ、この爺さんまだ生きてるん?」と聞いてくる。

今度見つけたら、その時には顔にモザイクでもして、記事に載せるかもしれない。

写真が見られた時には、この記事を読んだ方と是非共感したい。

あ、確かに【見た目キモいけど、めっちゃ良い人】だと。

とりあえず、おっちゃんの話はここでおしまい!

いやぁ、後編も長くなりましたね。

自分の備忘録も兼ねているので、これもこれも…と書き足していくとどんどん増えちゃいました。

後編で結構出てきた先輩のマキさん(仮名)。

お気づきの方もいるかと思いますが、前編の冒頭のLINEの相手です。

カビとボンジョルノの話も気になってる方多いかもしれませんね。

たぶん彼らの思い出は…3行で終わると思います(笑)

一応、広告的なものも入れておくよ!

タイトルはこれをパロってます。

あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。

実写化や、舞台化もされている名作。

あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない(実写版)

ちなみに私は観たことない(けど、有名やからきっと名作に違いない)。

後編を書き終わるまでに観て、ついでにレビューでも書くか!(多分しない)

って、前編で書きましたが、やっぱり観てないです。

コミカライズもしているらしいんで、もしかしたら本で読むかも(いや、読まないなきっと)。

また、面白そうなこと思いついたり思い出したりしたら書いてみます。

おしまいっ!

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